大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所堺支部 昭和41年(ワ)44号 判決 1968年6月05日

原告 米田武吉

右訴訟代理人弁護士 木村保男

右同 的場悠紀

被告 川口泰三

右訴訟代理人弁護士 邑本誠

主文

被告は原告に対し、別紙目録(一)記載の家屋を明渡し、昭和三六年一月一日から右明渡済に至るまで一ヶ月金八〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金銭支払を命ずる部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

本件家屋および別紙目録(二)記載の土地は原告の所有であること、原告が昭和一七年三月本件家屋を被告に賃貸し、昭和三六年当時その賃料は一ヶ月金八〇〇円と定められていたこと、被告が終戦後原告の承諾を得て本件家屋に附設して約六坪の物置を右目録(二)記載の土地内に建築したものであることは、当事者間に争いがない。

ところで、≪証拠省略≫によると、被告は昭和二六年六月頃右物置を住居に改装して使用しようとする訴外高橋武の母某に対し、代金一万五、〇〇〇円で売却したので、右高橋は右建物を約三万円余の工事費を投入して住宅に改造し、爾後この建物に居住し、建物を所有し使用することにより、右母および高橋がその建物の敷地である別紙目録(二)記載の土地を占有し使用してきたものであるが、被告の高橋への右土地の転貸は、原告の承諾を得ず無断でなされていたところ、昭和三五年の暮頃原告の知るところとなり、原告は被告の右違法の処置を責め、背信行為を理由に家屋明渡の請求をなした、そしてその後双方折衝の結果原被告間において本件家屋賃貸借契約を合意解除した上、被告が原告から立退料として金一一万円の支払を受けると同時に原告に対し本件家屋を明渡す旨の示談が成立し、原告が被告にその半額金六万円の支払いをしたのであるが、被告が右高橋の建物を収去して土地を明渡す義務を履行しなかったため、原告から右の示談を解消する旨の意思表示がなされ、被告もこれを了承して右金六万円を原告に返還し、示談がなされなかった状態となったが、被告が家屋の明渡しをがえんじないので、原告は爾後家賃金の受領を拒絶し、被告に家屋の明渡しと訴外高橋所有家屋の収去方を強く請求しつづけてきたものであることが、認められる。

≪証拠判断省略≫

そこで、原告が被告に対して本訴状をもってなした契約解除の当否について考察するに

家屋の賃借人が賃貸人から賃借家屋利用の必要上使用することを認められた家屋の周囲の土地の一部に、物置小屋を作ることの承諾を得てこれを建設し、その敷地を使用する場合は、家屋の賃貸借契約以外に独立して土地の使用についての契約がなされたものとみるべきではなく、それは家屋の用益についてその範囲を定めたもので、家屋賃貸借契約の一内容を形成するものに過ぎないものといわなければならない、しかして右のような事情のもとにおいて、賃借人が賃貸人より使用することを認められた土地の使用の範囲および目的は、家屋の用益を充足するに必要なる範囲、すなわち自己が使用する物置小屋設置なる用益のための範囲および目的にかぎられるべきである。従って賃借人が右の限度を越えて他の用途に使用しえない責務を有するものというべきであるから、その物置小屋を他人に譲渡し、他人をしてその小屋の敷地である土地を使用させることができないものであることはいうまでもない。

ところが、本件の被告が原告から本件賃借家屋の用益のために物置小屋を建設することにのみ土地の一部の使用を許されたのにかかわらず、右用益の範囲を著しく逸脱して、右小屋を原告の承諾を受けることなくして、住宅に改装してここに居住せんとする訴外高橋武の母に売却し、同人らをしてその敷地を占有使用せしめた、そして原告をして右土地を原状に回復することを困難ならしめたのであるから、かかる結果を導いた右被告の行為は原告との前記契約に違反するものであり、しかもそれは著しい背信行為というべきである。とすれば被告が賃貸人である原告から、本件家屋賃貸借契約全部を解除されてもやむをえないものといわなければならない。

ところで、右訴外高橋武の母が被告から買受けた前記建物が、その後第二室戸台風によって倒潰したので、右高橋がその地上に木造トタン葺平家建居宅一棟(建坪約一三・八八平方メートル)附属建物木造トタン葺平家建便所一棟(建坪約〇・八二平方メートル)の建物を建設したことは当事者弁論の全趣旨に徴しこれを認めうるところ、被告は右高橋が右建物を建設しようとする際原告に中止さすべく申入れたが、原告は同人に建設することを承認したのであるから被告に背信行為がない旨主張するが、当裁判所が措信しない被告本人尋問の結果を除いて右事実を認めうる証拠はないのみならず、被告の背信行為は前記のごとく前記物置小屋を訴外高橋武の母に住宅用として売却して同人および右武に本件土地の敷地を使用せしめたことによって生じたものであって、その後訴外高橋武において倒潰家屋を建直したことは右被告の行為の結果生じたものとして関連があっても、直接そのことによって生じたものではない、それ故被告の主張は採用することができない。

なお前記示談に基づき一たん被告が明渡した本件家屋に右の示談解消のため再び入居し引続き原告よりこれを賃借することとなった旨の被告の主張も、右示談解消により示談契約がなかったと同一状態に復したところ、その後原告が被告に賃貸の継続を承認したことがないばかりか、昭和三六年一月以後家賃金の受領を拒絶して現在まで終始被告に対し本件家屋の明渡しとともに訴外高橋所有建物の収去を求めてきたものであることは前認定のとおりであり、原告において被告の前記背信行為を宥恕したものとは到底認められないから、右被告の主張の理由のないことは明らかである。

そうだとすると、原告が前記被告の背信行為を理由として改めて本訴状をもって本件家屋賃貸借契約を解除したことは相当である。よって右解除を原因とする本件家屋の明渡しと原告が未だ支払を受けていない昭和三六年一月一日以降の家賃金ならびに家賃金相当の損害金の支払を求める原告の本訴請求は爾余の点の判断をまつまでもなく理由があるので、これを正当として認容し、仮執行の宣言については金銭の支払いを命ずる部分のみに付するを相当と認め、民事訴訟法第八九条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 依田六郎)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例